源氏物語第11帖「花散里」。
五月雨がしとしと降る時期、
梅雨の晴れ間に源氏は麗景殿の女御を訪れました。
しかし、本当の目的は麗景殿の女御の妹、
三の君(花散里)に会うことでした。
源氏はその途中中川あたりで、
見覚えのある邸から、
和琴の音が派手になっているので気になり、
よく見てみると一度だけ来たことがある女の家でした。
「長く訪ねていないから忘れられているかもしれないな」、
と思いながらもじっとその家を見ていると、
ほととぎすが一声鳴いて渡って行ったのです。
源氏は何か促されているように感じ、
車を引き返らせ家来の以光にさっそく手紙を持たせました。
「昔を今に引き返して、
思いをこらえることができなくなったほととぎすが、
あの頃ほのかに逢瀬をいたしました、
この家の垣根に鳴いております」、
と以光が源氏の歌を伝えると、
中では若い女房たちの声などがして、
いったい誰だろうといぶかしんでいるようです。
そのうち返歌が詠みだされました。
「ほととぎすが語りかけてくる声は、
確かに昔のあの声でございますが、
ああはっきりいたしませんねぇ、
この五月雨の空では」と。
以光はわからないふりをして、
こんなことを言うのであろうと思い、
「花散りし庭の木の葉も」で始まる古歌になぞらえ、
「ここがどこやら見間違えたかもしれませんなぁ」、
と言いながらさっさと出てしまったのです。
その家の中では女が一人、
恨めしくも残念にも思っているのでした。
源氏はこのレベルの女なら、
「筑紫の五節(ごせち)」という舞姫がよかったな、
などと他の女のことを思い出しているのです。
一度関係した女のことは、
すっかり忘れることがない源氏ですが、
かえってそれが多くの女たちの悩みの種になってしまうのです。
五節とは、
陰暦11月の新嘗祭で行われる、
四人(大嘗祭は五人)の舞姫による行事のことです。
次回に続きます。
2018年07月11日
源氏物語について その三十六
posted by コポ at 21:31| Comment(0)
| 源氏物語
この記事へのコメント
コメントを書く